NHKのニュースなど見ていると、未成年の子が不幸な選択をしてとんでもない結果(人様に多大なるご迷惑)を引き起こし、ご両親が「どうしてそんなことになったのか」と苦しんでいる様子を、時折り目にする。
テレビを見ながら僕も妻も他人事でないと焦るのだが、振り返ってみれば、若かりし僕も大事なことや非常に悩んだことは一切両親に相談しなかった。そういうものなのだ。たまたま悪い結果にならなかっただけだ。
数十年前、僕が勤めていた会社が倒産した。そんな大企業ではないが全国紙の隅っこに記事が出た。親から電話が掛かってきて「大丈夫か?」と聞いた。子供の就職先をちゃんと覚えていたのだ。「ああ、転職してたわ。黙っててごめん。半年前かな。倒産しそうだったから」と伝えたら、呆れ半分、安心半分で笑っていた。
親御さんが「なぜ一言相談してもらえなかったのか」と思ってしまうのはよく分かる。子供のやったことは親の自分にも責任の一端が、と思うのだろうし、できれば子供を守りたかった無念もあるだろう。
しかし、子は親に相談しない。「心配をかけたくなかったから」。親に心配させたら気の毒だからではない。親に相談すると、真剣に心配されるから「うざい」のである。「めんどくせー」のである。だから相談しない。そういうものだ。親の責任ではないし、育て方を間違ったわけでもない。むしろ育て方が正しかったから相談しなかった。
裏技がある。
困った時に、必ず子供が相談しに来る裏技である
家を出る子供に、こう伝えておくのだ。
「お前が本当に困った時のために、まとまった金を用意してある。本当に困ったら、お母さんに相談しろ」
あるいは、
「お前が本当に困ったら連絡しろ。就職先に心当たりがある。給料は安いが、それなりに楽で安定した仕事だ」
などと伝えておくのだ。
もちろん、そんな金はないし、斡旋できる就職先もない。
子供は困った時に連絡してくるだろう。
「今まさに結構困った状況にあるんだけど、昔言ってたあれ(まとまった金あるいは就職先)どうなってる?」
「ああ、あれか。あれはお前が困った時に俺に相談させるように仕込んだ嘘だ。まことにごめんなさい」
それを聞いた子供は、相談した意味がなかった、と思うだろう。
親である自分は、子供の将来をコントロールできたかもしれない、と思いたいのは分かるが、18歳を超えた子供はもうコントロールできないのだ。
おっさんおばさんから見れば、大したことないことで悩んで苦しむのが子供である。そんな子供の様子を見てるとやっぱり心配になる。しかし、子供から相談してくることはないし、こちらから聞いても無駄である。
子離れするしかない。諦めて遠くから消息を聞くだけである。