ラピュタはリアルタイムで映画館で見た。
同時上映の犬の「名探偵ホームズ」が目的だった。テレビシリーズが大好きだったのだ。あれを映画館で観たいから行ったのであって、ラピュタ?何それ? であった。
当然の帰結として、中学生だった僕はラピュタに圧倒的に打ちのめされ圧倒された。小遣いを前借りして三度観た。絵コンテやらイラスト集的な本も買って繰り返し眺めたものだ。
僕には絵の才能がないと気がついたのもその頃だったな。
そして今に至る。
コロナ禍に入って「ジブリ美術館の経営が楽ではない」といったニュースを見た。
ならば、お布施をしなければならない。と思った。
「ジブリ美術館オンラインショップ マンマユート」の商品を検討して、ささやかながらラピュタのポスターと復刻パンフレット一式を購入させていただいた。
(ささやかとはいえ僕の小遣い的にはそれなりのインパクトである
以来「マンマユート」の商品リリースメールが来るたびに割と真面目にチェックし、欲しいと思えたグッズはたまに買うようにしている。
でも正直、あまり「欲しい」とは思わないんだよな。歳をとってしまうと。
このキーホルダーも、おっさんとなった僕はそこまで欲しいとは思わなかったのである。しかし、何か引っ掛かるものがあった。だから、自問してみた。
「中学生の僕は、これを買っただろうか?」
答えは「Yes」であった。
今後もそんな感じでお布施をさせていただく所存である。
ふと、思い出した。
「魔女の宅急便」の頃だろうか。
高校生の頃、大学受験に悩み、苦しんでいた僕は、ジブリに手紙を出したのだ。
僕は絵は描けないが、ジブリ作品のような素晴らしいアニメ映画を作りたい。そういう仕事に就きたい。どうしたらいいだろうか?という内容だったと思う。
我ながら、よくもまあ、そんな手紙を書いたもんだな、と呆れるが、大学受験は確かにものすごいストレスだったので、あまり普通の精神状態ではなかったのだ。当時は。
なんと、返事が返って来た。
詳しくは覚えていない。勉強して進学してからまたチャレンジしてくださいとか、そういう温かい内容だったと思う。ちょっとした可愛いイラストもついていたかもしれない。
おそらくは女性の手によるものだった。手紙の質感や文章の記憶はない。漠然とした印象が残るだけだ。少なくとも宮崎駿氏からの返答ではなかったのは間違いない。(当たり前だ
(今思えば「耳すま」みたいな話だな。登場人物も状況もえらい違うけれど。
しかし、僕はそれを読んで、捨ててしまった。
手紙を書いてポストに入れた瞬間に「僕がジブリに就職できるはずがない」ことが「分かって」しまったからだ。
俺は何をやっているんだ。勉強するしかないじゃないか。
ポストに投函した、その時点で僕の手紙はすでに「黒歴史」になっていたのだ。
返事はありがたいと思い、感謝して読んだ。
しかし、あまりに恥ずかしくてこの手紙を繰り返し読むことはできないと思った。
そして貰った手紙を、捨ててしまった。
仮に、今その手紙が手元にあったとしたらどうだろう?
今読み返せば、別の感慨があるに違いない。30年以上前の高校生に、ジブリの社員の方が送ってくれた温かい手紙である。
第三者からすれば、かなり興味を誘う手紙に違いない。
でも、アラフィフになった僕でも、やっぱり恥ずかしくて、とても読み返すことはできないだろう。
アラフィフになった今でも、もったいないというより、恥ずかしい気分が強い。
やはり、手元に置くわけにはいかなかったのである。
まあ、数々ある黒歴史の中ではまだずいぶんマシな、ほろ苦い思い出だけどね。